「いま持っている車で、焼き芋屋を始められますか?」
工房に届く相談の中で、いちばん多い質問のひとつです。答えは「はい」。軽バンでも軽トラでも、荷台や後部にある程度スペースがある車なら始められます。しかも車で売る焼き芋屋には、キッチンカーにはない大きな強みがあります。
私も軽バンで焼き芋を運んで、売ってきました。本格的な車両を作る必要はありません。その理由から順に話します。
一番の強み:キッチンカーが、いらない
焼き芋は、さつまいもを切らずに焼いてそのまま売るかぎり、車で売っても「営業届出」の対象です。宮城県の案内には「焼き芋、ゆでとうもろこし、甘栗などは営業許可の対象ではなく、届出の対象」とはっきり書かれています。届出は無料で、有効期限もなく、車を保健所に持ち込む検査もありません。必要なのは、届出と食品衛生責任者(1日講習)だけです。
キッチンカーは違います。車の中で調理して提供するので「飲食店営業(自動車)」の許可が要り、給排水タンクやシンクなどの設備基準を満たしたうえで、保健所が車を検査します。手数料は1万6千円前後、数年ごとに更新です。
車検も同じです。国土交通省の基準では、構造変更の検査が要るのは「長さ・幅・高さ・乗車定員・最大積載量・車体の形状・用途などが変わる改造をしたとき」。焼き芋機を積むだけで、車を改造しないなら、いつもの車検のまま。8ナンバーへの変更も要りません。
保健所の検査も、構造変更の車検も、いらない。これが、焼き芋という商売の身軽さです。
売り方は2つ。車を売り場にするか、机を出すか
ひとつは、荷台をそのまま売り場にする売り方。車の後ろを開けて焼き、そこで手渡します。雨の日も商品と道具が濡れず、机を出す場所がないところでも売れます。
もうひとつは、車は運ぶだけにして、着いた先で机を出す売り方。いわゆるポップアップです。売り場を広く取れて、車種を選びません。飾りはのぼり1本で十分で、キッチンカー風に仕上げる必要はありません。
車に、焼き芋機は積めるのか
私の焼き芋機は本体4.5kgで、ひとりで持ち上げて出し入れできます。写真のとおり、軽バンの荷台には2台を並べて積めて、手前に作業スペースも残ります。荷台や後部にスペースがある車なら、1台は問題なく積めます。固定しないので、週末だけ焼き芋屋、平日は普段の車、という使い方ができます。
2台を並べる前提で考えるのには理由があります。焼き芋は1回の焼成が約100分、焼いて次を仕込むまで2時間ほど。1台だと「焼き上がりを待つあいだ、売るものがない」時間が生まれます。2台を時間差で回すと、この待ち時間がぐっと減り、売れる場所ではそのまま売上が伸びます。1台で始めて、売れる場所が見えてきたら2台目を足す。この順番で広げた方が多いです。
火の扱いは、思っているより軽い
「車の荷台で焼くと、車に悪影響はありませんか?」という相談をよくいただきます。
炭は焼き芋機の中で燃えていて、バーベキューのように火が開放されているわけではありません。焼くときはバックドアを開け放つので、換気を別に考える必要もありません。守ることは3つです。
- 走行中は焼かない。平らな場所に停めて、車を安定させてから焼く
- 後ろを開けて焼く。閉め切った車内では焼かない(炭は一酸化炭素を出します)
- 使い終わった炭は、火消し壺で確実に消す
本体のまわりにも熱は出るので、内装から少し離して置き、床には耐火マットやゴムマット、焚き火シートを敷いておけば十分です。
費用と、確認しておくこと
車をすでに持っているなら、車の費用はゼロ。自宅前の週末営業なら、機材と初回の仕入れで10万円台からのスタートも現実的です。これから中古で用意するなら、軽バンや軽トラはおおむね20万円台から、状態のよいもので80万円前後が目安です。炭代は1回100〜150円ほどです。
届出の様式は、車で営業する場合だけ別になっている自治体があります。営業予定地の保健所に「車で焼き芋を売ります」と伝えて、様式を確認してください。届出の全体は届出・資格・手続きの記事に。
売る場所は、スーパーの駐車場や自宅前など、私有地で持ち主の許可を得るのが基本です。公道に停めて売る場合や、住宅地を巡って売る場合は、警察署と自治体で扱いが変わるので、事前に相談を。場所の探し方は出店場所の記事に書きました。
任意保険は、いまの契約のままで大丈夫なことがほとんどです。保険の「使用目的」は、車を仕事に使う日数で決まっていて、多くの保険会社では、年間を通じて月15日以上を仕事に使う場合が「業務使用」、それ未満なら「日常・レジャー」のままです。週末だけの焼き芋屋なら、この範囲に収まります。月15日を超えるようになったら、保険会社に使用目的の変更を伝えてください。
まとめ——車は「持っているもの」から
- 車で売る焼き芋屋には、キッチンカーのような保健所の検査も、構造変更の車検もいらない。届出と1日講習だけ
- 車は買い替えなくていい。荷台にスペースがあれば、いまの車に焼き芋機を積むだけ
- 売り方は、荷台で売るか、机を出すか。飾るかどうかは好みでいい
- 走行中は焼かない。焼くときは後ろを開け放つ。炭は火消し壺で消す
開業全体の手順は、7ステップにまとめています。車の話は、そのうちの一部です。焦らず、順番に整えていきましょう。
参考にした公的情報
- 宮城県「自動車を利用して食品の調理・販売を行う場合の手続きについて」(焼き芋等は営業許可対象ではなく届出対象)
- 福岡市「自動車(キッチンカー)による営業について」(飲食店営業(自動車)の検査・手数料)
- 国土交通省 自動車検査登録総合ポータルサイト「構造等変更の手続」
- 警察庁「道路使用許可の概要、申請手続等」
※ 制度の運用は自治体・管轄窓口や保険会社によって異なる場合があります。実際の手続きは、営業予定地の管轄窓口(保健所・警察署)とご加入の保険会社にご確認ください。
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