「焼き芋屋 儲かる」で検索すると、判で押したように同じ試算が出てきます。「1本400円×1日100本×月20日=月商80万円。年収480万円も夢じゃない」——数字だけ見れば、たしかに夢のある話です。
私は家族で焼き芋を売ってきました。その立場から正直に言うと、この試算は嘘ではありませんが、大事な前提が3つ抜けています。そして前提が抜けたままの数字を信じて始めると、最初の冬に「話が違う」となりがちです。
この記事では、「儲かる」とも「儲からない」とも断定しません。代わりに、焼き芋屋の収支がどういう構造で決まるのかを分解して、あなたが自分の立地・自分の条件で計算できる状態にすることを目指します。
よくある試算に抜けている3つの前提
前提1:そもそも1日100本を「焼けるのか」
まず物理の話です。焼き芋は、焼くのに時間がかかります。
石焼きや炭火の業務用機の場合、1回の焼成はおよそ90〜120分。1回に焼けるのは25〜30本前後(約5〜5.5kg)が目安です。8時間の営業でフル回転させても、1台で焼けるのはおよそ20kg——Mサイズ中心(1本200g前後として単純計算)なら、およそ80〜120本相当です。
つまり「1日100本」は、1台を朝から晩まで休みなく回して、焼けた分がほぼ完売して、やっと届く数字です。実際の現場では、焼成の合間に売り切れて「次が焼けるまで30分待ち」という機会損失も普通に起きます。100本は「頑張れば楽に超えられる数字」ではなく、1台運用の上限付近にある数字だと知っておいてください。
前提2:毎日その本数が「売れるのか」
次は需要側です。雨の日は人が出ません。平日と週末では人通りがまるで違います。そして焼き芋の需要は、秋から冬に大きく偏ります。
「月20日、毎日100本」という前提は、よく売れた日の数字をそのまま毎日に引き伸ばしたものです。机上試算が現実とずれる一番のからくりが、ここにあります。晴れた週末の数字と、小雨の火曜日の数字は、同じ場所でも別物です。
前提3:経費は芋代だけか
よくある試算は、経費を芋代だけで計算しがちです。実際に商売として回すと、次のようなお金が出ていきます。
- 出店料(定額の場所もあれば、売上歩合の場所もあります。場所の探し方は「焼き芋の移動販売はどこで売る?」へ)
- 車両の維持費・ガソリン代(移動販売の場合)
- 炭などの燃料代
- 袋・包装などの消耗品
- キャッシュレス決済の手数料(売上の数%)
- 保険料など
また、出店の形によっては営業届出や道路使用許可などの手続きも関わります。この扱いは自治体(管轄窓口)によって差があるので、必ず事前に確認してください。詳しくは焼き芋の移動販売に営業許可はいらない?で整理しています。
原価の実際——「1本あたり」に直して考える
芋代:相場は「幅」で見る
さつまいもの仕入れ値は、年・産地・品種・等級・買う量でかなり変わります。特定の単価を鵜呑みにせず、幅で考えるのが現実的です。
計算の型はシンプルで、「キロ単価 × 1本の重さ」です。たとえば仮にキロ300円で仕入れて1本200gなら芋代は約60円、キロ500円なら約100円——これはあくまで計算例で、実際の単価はあなたの仕入れ先で確かめてください。仕入れ先の探し方や価格の考え方は焼き芋屋のさつまいも仕入れ完全ガイドに詳しく書きました。
もうひとつ、見落とされがちなのがロス(傷み)です。さつまいもは10〜20℃で保存し、洗うのは焼く当日。この基本を守るだけで捨てる芋が減ります。ロスを減らすことは、実質的な原価対策です。
炭代:1回100〜150円という現実
オガ炭を使う場合、1回の焼成で使うのは約500g、金額にして100〜150円ほどです。1回で25〜30本焼けるので、1本あたりに直すと4〜6円程度。「炭火はコストが高そう」と思われがちですが、燃料費は芋代に比べればずっと小さい、というのが売ってきた実感です(ガス式・電気式は別の計算になります)。
袋・雑費
紙袋は1枚数円です。ここまでが「原価」で、決済手数料や出店料は原価とは別の販売経費として積む——この区別をしておくと、後で「思ったより残らない」と混乱せずに済みます。
売上の上限は「焼成キャパ」で先に決まっている
ここが、この記事でいちばん伝えたいことです。多くの記事は「何本売れるか」を需要側だけで語りますが、売上には機材側の天井があります。
1日の売上上限 = 1回に焼ける本数 × 1日の回転数 × 単価
1回の焼成が90〜120分なら、8時間営業での回転数はどう頑張っても4〜5回。単純計算では25〜30本×4〜5回=100〜150本ですが、芋の入れ替えや火の調整の時間があるので、実際は1台およそ20kg(80〜120本相当)が目安です。
需要がどれだけあっても、この上限は超えられません。逆に、立地の需要がこの上限より小さければ、売上は立地側で決まります。つまり機材の焼成能力は、味だけでなく事業計画の上限を決める変数です。機材をキャパで選ぶ視点は業務用焼き芋機の選び方で詳しく解説しています。
値付けは2方式——量り売りと本売り
単価は上の式の3つ目の変数です。決め方は大きく2つあります。
| 方式 | 決め方 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 量り売り | 100gあたり○円×重さ | サイズがばらつく仕入れ・大きな芋 | 秤が必要・会計に時間 |
| 本売り | 1本○円(サイズ別) | 行列時の会計スピード重視・イベント | サイズの選別に手間 |
単価そのものは「原価にいくら乗せるか」ではなく、「その場所のお客さんが、その体験にいくら払うか」から考えます。スーパーの棚の焼き芋と、目の前で熱々が出てくる焼き芋は、同じ商品ではありません。ただし高めの単価が成立するかは客層と立地次第で、ここも自分の場所で試すしかない変数です。
実例はある。ただし「平均」ではない
私は売り手であると同時に、業務用の焼き芋機を設計製造する仕事もしています。全国に200名を超えるオーナーさんがいて、その中には焼き芋機2台で1日40kgを焼き上げる移動販売のオーナーさんもいます。
ただ、正直に書きます。これは立地と売り方を磨き続けた上位の例で、平均ではありません。この数字を最初から事業計画に置くのは危険です。
むしろ注目してほしいのは「2台」という部分です。1台の焼成キャパ約20kgという上限を、台数で超えている——売上の壁が機材側にあるという構造の、わかりやすい実例です(ちなみに軽バンの荷台には焼き芋機2台が横並びで載ります。2台で幅約130cmほどです)。
季節の現実:秋冬に集中する商売
もうひとつ、年間で見たときの現実です。焼き芋の需要は秋から冬に集中します。春先から需要は落ち、夏は素直に厳しい。つまり「12月の良い数字×12か月」という計算は成り立ちません。
年間の収支は、繁忙期の山と閑散期の谷をならした数字で考えてください。夏場の工夫(冷やし焼き芋など)については「焼き芋は冬だけ?通年販売の現実的な選択肢と夏の売り方」にまとめています。
まとめ:答えは、あなたの立地にしかない
冒頭の問い——焼き芋屋は儲かるのか——への、私の正直な答えはこうです。
収支の構造を理解して、場所を選び、小さく検証した人は、自分の数字をつかんで堅実に続けています。ただし変数が大きい商売なので、他人の試算をコピーしても自分の数字にはなりません。
- 売上の上限は「1回に焼ける本数×回転数×単価」で機材側から先に決まる
- 原価(芋・炭・袋)より、立地と季節の変動のほうが収支に効く
- 上位の実例はあるが、平均ではない
幸い、焼き芋は小さく始めて検証できる商売です。自宅前の週末営業なら、10万円台からのスタートも現実的です(内訳は「焼き芋屋の開業資金はいくら?」で詳しく書きました)。まず小さく焼いて売って、自分の立地の数字を取る——遠回りに見えて、それが一番の近道だと私は思っています。
開業全体の手順は焼き芋屋の始め方|開業までの7ステップにまとめています。この記事の「構造」を頭に入れてから読むと、各ステップの意味がつながるはずです。
※ 本記事の数字は私たちの経験にもとづく目安です。収支は立地・季節・運用によって大きく変わり、特定の収入を保証するものではありません。